眼鏡概念

適温探し

毒にも薬にもならない話

1と0の間についての一考察

4月になると何か新しいことを始めたくなる。

 

まぁ1月も年の始めで同じような気持ちになるし、夏が始まる7月も、年内残り3か月になる10月も何かを始めたくなるから、実際は1クールに1回はその感情が訪れる。始めたことが続いているかどうかは言わずもがな。そんなサイクルを今年も過ごしているが、なんだか年々新しいことに挑戦するのが億劫になってるような気がして、その理由を考えていた。

 

あたりを見渡すと周りの同世代が徐々に落ち着きだして、なにかを始めたり興味を示したりする人が減り、なんとなくそこかしこにそろそろ落ち着かなきゃなという空気感が漂い始めていた。田舎で暮らしているとプラスαで地域一帯にその空気感がふよふよしている。この「落ち着け空気感」がなかなか厄介で、ちょっとしたはずみでその空気を浴びてしまうと、熱意がふわっと消えてしまう。そして残るのは予定調和の世界。当たり前の日常。ああ無情。

 

そんな空気感が出てしまう背景には、僕らが生まれて何年経ったというカウントを事あるごとにしてしまうのがあるように思う。人生五十年の織田信長と比べても、僕ら世代の平均寿命は倍近くになった。にもかかわらず生まれてから◯年経ったという基準で物事を考えがちなのは、いつ死ぬのかがわからないのに対して、いつ生まれたのかが明確なのが原因なのだろう。根拠はないけど。 

 

スタート地点からの距離で測るから同世代のすごい人に嫉妬してしまうかもしれないけど、みんなの走れる時間が同じだとは限らない。美人は決まって薄命だ。諦めずに走り続けてたら、いつか追いついて並ぶことができるかもしれない。とはいえ余命を宣告されていないし、いつ死ぬのかがわからない中で終わりを意識するのはとても困難。

 

なんて事にちょっとでも共感を覚えてくれたあなたのために、僕はBUMP OF CHICKENの話をしたい。突然BUMPが出てきたが、冒頭の「4月になると以下省略」からBUMPについて書くことを決めていたので何卒お付き合いいただきたい。

 

 BUMPの曲におけるゼロの意味

 

数えた足跡など気づけば数字でしかない

知らなきゃいけないことはどうやら1と0の間

『カルマ』

 

歌詞を初めて読んだ時、ここでいう0は一歩を踏み出していない状態を指していると思っていた。数えた足跡は何をしてきたかどうかという、いわばキャリア(歴史)。それをどれだけ積んでいるかは重要じゃなくて、大切なのは始めるかどうか。僕らが知らなきゃいけないのは挑戦すること、だと解釈していた。

 

何かを始める時に自分よりも先に走って足跡を残している人を見ると、今からではもう追いつけないと萎縮してしまう。でもそこで諦めることなく挑戦することでゼロをイチにしていくことが生きていく上で大切。ホリエモンの本に書いてそうなメッセージをこの曲から受け取っていた。

 

がしかし、この考え方はのちに発表された2曲によって180度変わった。

 

終わりまであなたといたい

それ以外確かな想いがない

『ゼロ』

  

約束が欲しかったんだ希望の約束が

そのためならすべてをかけられるような

『ラストワン』

 

そのまんまタイトルにも使われているので、想像も妄想も必要ない。BUMPにとってのゼロは終わりだった。そして1は最初の一歩ではなく最後の1(ラストワン)だった。 歌詞をそのまま読むとラストワンはすべてをかけられるような約束を意味している。ゼロ発表時点での藤原基央が考えるラストワンは終わりまであなたといることだったんだろう。今はどうかわからない。

 

ということを踏まえて、再度カルマの歌詞をなぞってみてほしい。これまで何をしてきたかはただの数字で、重要じゃない。僕らが知らなきゃいけないのは人生のすべてをかけられるような約束をする時とその約束が実現した時の間にある。つまり、これだという約束(実現したら死んでもいいレベル)を実行するのが大切だということ。という解釈ができないだろうか。

 

ゼロ地点(スタート)から数字を積み重ねていくのではなく、あくまでも自分のゼロ(終わり)に向かってカウントダウンをしていく。そこには他者への嫉妬も、出遅れたことによる諦めもない。

 

とはいえいつゼロになるかわからない

人は年を取る度 終わりに近付いていく

動いていない様に見えても 確かに進んでいる

銀河鉄道

 

藤原基央ほど終わりを意識している音楽家はいないと思う。

 

いつ終わるのかはわからないかもしれないが、見方を変えればいつかはわからないが終わりがあるし、その終わりに近付いていくのは間違いない事実。不確実性の中にある確実を綺麗にすくい取っている美しい歌詞にうっとりする。

 

うっとりするだけじゃなくて、実際に僕らが意識するのも「いつかは終わりが来ること」と「それに日々近付いている」というところまででいい。あとはその終わりに向けてのラストワンとも言える約束を見つけることができたらもう最高

 

いつ終わりが来るのかわからない以上、いつ始めても手遅れなんてことはない。「落ち着け空気感」に流されずに、自分のゴールを見据えながらどんどん新しいことにしていきたい。そしていつか来るだろう終わりを迎えられたらいいなって思う。