眼鏡概念

適温探し

毒にも薬にもならない話

思考vol.7 〜器用貧乏〜

なにかと飽きっぽい性格だ。

 

いやほんと冒頭から書くようなことでもないけど、もう何年も前から気づいていた。対象を知ってから興味を持つまでの時間も一般平均よりは短いとは思うものの、興味を失うまでの期間が圧倒的に短い。瞬間沸騰、瞬間冷却。

 

一旦手を出したらとことん気になって、隙間時間のほとんど使って調べたり触ったり買ったり見たり聴いたりしてしまう。BUMPと羽海野チカ以外のアーティストは誰かの影響で好きになってるけど、紹介してくれた人を置き去りになって熱狂した。そして飽きていった。その道を極めるなら10000時間が必要だなんてことをよく耳にするけど、なにかひとつのことにそんな時間を割いた記憶がない。だからかもしれないけど、未だにこれといって人に誇れるような能力、特技、趣味がない。好きっていうのがお恥ずかしいレベルのものは数え切れないほどあるが、お恥ずかしすぎて履歴書には書けない

 

T字型

T字型という言葉が一昔前の啓発本で流行っていた。広く浅い知識を持って、その中の一つの分野で突き抜けたスペシャリストになることを意味していて、当時の理想の人材像だった。その当時はまだ青かったので案の定興味を持ち、これからはT字型の人間になろうと躍起になってあれこれ試したが、どの分野もそう長く続かなかった。なんならT字型人材になろうというマイブームもあっという間に終焉を迎えた。

 

ブームを過ぎたとはいえ忘れたわけじゃないから、意識の片隅にはあって。だからこそ多少のカラーバス効果もあったかもしれないけど、なんしかスペシャリストが視界に入った。そして目につけばつくほど一芸を持っていない自分への失望と、突き詰めているその人に対する嫉妬だけが募っていった。もがけばもがくほど結果を残している誰かとの差を見せつけられる地獄、T字型人材地獄の中にいた。語呂はいいけど二度と行きたくはない。

 

地獄からの脱出

思い出話ばかりしても仕方がないから、地獄の抜け方についても書いておく。あくまで個人的な体験によるものだし、そういうケースもあるんだなぐらいで見ていただきたい。

 

契機は色々あったけど一番大きかったのは日本酒を飲みだしたことにあると思う。あ、お酒に逃げろという話ではないですよ。もともと好んで飲んでいたけど、ある時期からちょっとだけ意識して飲むようになった。持ち前の瞬間沸騰スキルを活かしてあれこれ調べ出した。といっても唎酒師などの資格は持ってないし、資格勉強は絶対に飽きると思って始めてすらいないし、始める気もない。ライセンスよりも美味しいお酒を楽しく飲むための最低限な基礎知識が欲しかった。なので飲んだお酒の記録をつけたり、日本酒のイベントに行ったり、日本酒のイベントを手伝ったり、楽しめる範囲で少しずつ付き合いを深くしていった。

 

イベントを手伝うくらいになると自分が誰かに勧める機会も増えていった。先にも書いたように無資格だし、専門的な知識もない。けど楽しむための最低限の知識だけあれば、それなりに説明もできた。

 

相手がどのレベルまでを求めてるかにもよるけど、お酒のイベントで聞かれたことの大多数は「これはどんな味のお酒?」ということだった。これは専門的な知識がなくても、ラベルに書いてある情報と自分が飲んだ時の感覚でなんとなく説明することができる。このなんとなくってのがミソで、あくまで五感の感覚は人それぞれだから、それに正解はなくて、あくまで自分はこう感じるってのが明らかに外れてなければ事足りた。

 

これって別に日本酒に限らずどの分野でもそうだと思うけど、質問してきた人よりもちょっとでも詳しかったらその人の役に立てる。そういう機会は日常のありとあらゆるところにある。そして仮に自分が質問する側だったらその道の専門家よりもちょっと詳しいくらいの方が気負わずに聞きやすい気がする。さらに誰かに教えてると興味が持続するみたいで、未だ日本酒は飽きていないし今後もよっぽど肝臓ぶち壊れない限り飽きる気配がない。

 

器用貧乏を追求する

極めたいよりも知りたいの方にモチベーションを感じるうちはT字型にはなれない。でもせっかく好奇心が湧いたのなら興味の向く方について楽しむ方が少なくとも健全だと思う。専門的な知識は今や調べたらチョチョイと出てくるし、知的分野における専門家の優位性ってあんまりないような気がするし、なんなら身体的な専門性も今後機械の力で再現可能になってくると妄想している。器用貧乏に優しい世界がきっと到来する。

 

そうなってきたら一分野における専門性よりも、全然異なるAとBを繋げたり編集したりする能力の方が重宝されるだろうし、言わずもがなそのためにはいろんな物事を知っている方が良い。少なくとも僕はなにかひとつでレベル100を目指すことに長けていないので、レベル5ぐらいの趣味特技をこれからもどんどん増やしながら、ちょこちょこレベル上げしていきたい。

 

最後の方は希望的観測ぶん投げる形になりましたが、自分以外の器用貧乏な人たちに書くことに飽きてしまう前にどうしても伝えたかったので、そのままぶん投げます。あしからず。